« プロフィールと業務紹介 | トップページ | 国分寺名水景観訴訟 »

犬の医療過誤

高等裁判所もペットを家族の一員と認める

私の扱っている犬の医療過誤事件について名古屋高等裁判所金沢支部で判決がでました。

愛犬の手術が、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)が無く行われ、適切な治療を選ぶ機会が奪われたとして、飼主の夫婦が動物病院に損害賠償請求をしていた事件で、地元の弁護士が担当していた1審では飼い主が敗訴したため、飼い主はその判決を不服として高等裁判所に控訴し、そこから私が担当しました。平成17年5月30日に高等裁判所は1審の判決を変更し、慰謝料を含む計42万円の支払いを動物病院側に命じる判決を下しました。

事件の内容は、13歳のゴールデンリトリバーが後ろ足の関節炎で長期にわたり通院し20050528_0851_000 ていましたが、数年前から左前足に腫瘍ができ次第に大きくなっていました。

獣医は「歩行のじゃまになるので、切除した方がよい。後ろ足はまだもちますよ」と言い、事前の検査をせずに腫瘍が悪性か良性かも不明のまま切除しました。

しかし、切除後、腫瘍は悪性であることが判明し、犬は容態が悪化、呼吸困難になり手術から約一ヶ月後にとうとう死亡してしまいました。悪性腫瘍のなかにはメスを入れるとかえって危険な性質の悪性腫瘍もありますし、予後を予想する上でも、腫瘍の性質、切除範囲の確定のために事前の検査は必須です。

飼主は、獣医の説明により「腫瘍を切除すれば、歩行が困難になることがないなら」と切除に応じたのであり、悪性の可能性など考えてもおらず、ましてや手術後に死亡するとは思っても見ませんでした。犬は、手術前は元気な状態でした。

飼い主としては、犬は13歳であり、悪性とわかっていれば、治癒の可能性の無い手術をして痛い思いをさせるより、余生を充実させる方を選ぶという可能性もあったのですが、獣医がその前提となる情報収集(検査)を怠り、飼主に適切な情報をあたえなかったのでした。

高等裁判所の判決では、「手術前に腫瘍の悪性、良性を診断するのに必要な義務があったのに怠った」として獣医師の治療義務違反を認定しました。「獣医師には飼い主がいかなる治療を選択するか情報を提供する義務がある」「手術の危険性を説明していれば、平穏な死を望んでいた夫婦は手術に同意をしなかった。手術により死期も早まった」としてインフォームドコンセント違反を指摘しました。その上で、「長年ともに暮らした我が子のような存在の飼い犬の死にあたり、自己決定権を侵害された」としてこの夫婦がうけた精神的苦痛を認め、慰謝料請求を認めました。

各地の地方裁判所の判決では、ペットの医療過誤で慰謝料請求を認める例が出てきており、賠償額もしだいに高額化していますが、高等裁判所で判決が出た例はまだ珍しく、高等裁判所がペットを家族と同様の存在と認める判断をした貴重な先例といえるでしょう。判例タイムス(1217号294頁)では、「ペット治療に関する医療過誤訴訟についても、通常の医療過誤訴訟と同様の判断手法が妥当することを高裁レベルで確認したものとして意義がある」と紹介されています。

今後も、このようなペットを巡る裁判はいろいろな面で増えてくると思いますが、司法の場でも動物を物ではなく、人間と共存していく命あるものだという認識をもった判断が広くなされていくことを期待したいと思います。(判決文は、判例タイムス、最高裁のHPにも掲載されていますhttp://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/8B212C204BE42E264925702E0005641B/?OpenDocument 平成17年8月22日上告却下により確定)

|

« プロフィールと業務紹介 | トップページ | 国分寺名水景観訴訟 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/123601/5025131

この記事へのトラックバック一覧です: 犬の医療過誤:

« プロフィールと業務紹介 | トップページ | 国分寺名水景観訴訟 »